理不尽なクレーマーの話 その1

店を経営していると、本当に様々なお客様がお見えになるんですよね。


田舎のスーパーだと、近隣の町村からもお見えになるので、面識の無いお客様も多いんです。



モンスタークレーマー

同じ町内に住んでいるお客様だったら、知り合いの可能性が高いし、殆どのお客様が知り合いの知り合い位の距離感の人ばかりである。

だからと言って、モンスタークレーマーがいないかと言えば、そんな事はない。



スーパーに買い物に来て「ツケにしろ」と言うモンスターなんて、割と頻繁にお目にかかったりする。



そういう時は、店長クラスが出て行って、お客様に説明をしてお引取りを願う事になるのですが、この対応で店長の資質がある程度わかるものです。



昔の体験談

私が経営していたスーパーに、酔っ払い客が来ました。

このお客様は、町内でも有名なクレーマーで、殆どの飲食店で出入り禁止。

「ツケを払わないから」「他の客に絡む」などの理由で出入り禁止になっている。

酔っていて、まだ飲み足りないらしく、酒を買いに来たらしいのですが、「今、金が無いからツケにしろ。」と言ったらしいのです。



レジの店員が「うちの店ではツケは出来ない」と説明したら、大声で騒ぎ出したそうで、他の店員が慌てて「社長!スグに来て下さい。」と私を呼びに来ました。

私は、何のことか全く判らなかったのですが、ただならぬ雰囲気だったので、仕事の手を止めて慌ててついて行きました。



そのクレーマーは「なぜツケが出来ないんだ」と騒いでいましたが、私の姿を見て静かになったので「当店では、掛売りはしてないんですよ。申し訳ありませんがお酒をお売りする事は出来ません。」と説明した。



すると、そのお客様は「判った。それなら釣りはいらん」と言って、レジに1000円札を叩きつけるように置いて出て行こうとしました。

レジの店員は、スグにレジを打ちました。


お釣を渡すのが間に合わないようだったので、私は「お客さん、すいません。ちょっと待ってください。」と呼びとめました。

お客様が振り返った時にレジの店員が、そのお客様にお釣を握らせました。

私は「お釣は受け取って頂かないと困ります。」とお客様に言いました。



逆ギレされた

ほっと安心した次の瞬間


「お前が○○か!ここいらで幅を利かせとるらしいな。話はよう聞いとるぞ。覚えとけよ!!」
と叫んで帰って行きました。


私は「有難うございました。」と言って頭を下げた。

小さな町の経営者だから、私の顔と名前などは誰だって知っている。

そのお客様だって、「お前が○○か!」って言ってたくらいだから、私の顔と名前を知っていたのだろう。


だって、私は一言も自分の名前を名乗る時間など無かったのだ。



結局、そのクレーマーは、レジの店員が若い女性だったから、大声で脅かせばツケにするだろうと思っていたのだろう。

ところが、若い女性店員は毅然とした態度で掛売りが出来ない事を説明した。

思い通りにならなかったので、逆ギレして大声で騒ぎ出したのだ。

ところがその後、私が現れたので困ったのだろう。



若い女性店員や気が弱そうな店員には、強気で理不尽なクレームをつけるが、毅然とした態度の人が出てくると、シュンと大人しくなるのだ。


最後の捨て台詞は、大声で騒いでおきながら大人しく支払いをした事が惨めに感じたのだろう。



私は、お客様相手なので、優しく丁寧に対応したつもりだった。

周りで見ていた従業員さんたちは「なんで、あんなに優しく説明するんですか!厳しく言って下さいよ。」と憤慨気味だった。



従業員さんたちにとって、私が不在の時に、その理不尽なクレーマーが来店したら対応に困るという不安もあったのだと思う。



お客様だと割り切る

しかし私は、お客様相手なのだから、対応は丁寧にするべきだと思う。

このお客様は、私より一回り以上年上なので、会う機会なんて滅多にないし、恐らく顔を見たのは二度目くらいだったと思う。


少なくとも「ここいらで幅を利かせている」と言うのは、彼の思い込みというか誤解である。


「話はよう聞いとるぞ」に至っては、完全に思い付きだろう。


まったく、人聞きの悪い言い掛かりだと思ったが、店の従業員に被害が無かったし、商品も無事、お金もちゃんと頂いたから問題なし。



その後はどうなったのか

その後、私が店を撤退し、店を他の会社に引き渡すまでの数年間は、彼が来店したという話は聞いた事がない。



その後、知人の法事の時に出会った事があった。

彼の弟分は、何かと私に話しかけてきたが、彼は最後まで話しかける事は無かった。

私も、話す事が無かったので、彼の弟分の話を聞いていた。

あの時の「覚えとけよ」は一体何だったのか判らないが、とりあえず私は覚えていたが、彼は忘れてしまっていたのだろうか。



それとも、彼がお世話になっている人と、私が知り合いだったので、あのときの事は知らん顔をしていたのかも知れない。