八ッ場ダムの7不思議には、明記されていない事実がある

感情論

八ッ場ダムに関することで、私が一番気になる事は、ダム建設中止問題が感情論で議論される事だ。

何十年もダム建設に反対してきたのに、泣く泣く受け入れた。
工事が始まって、住み慣れた土地を追われる事になった。

その後で、ダム建設中止を宣言された住民の方の怒りや悲しみを考えると、感情論を抜きにして語れる話ではない事は良く理解しているし、地元住民の方々が感情論中心の意見を述べるのは当然だと思う。

私が感情論で議論して欲しくないと考えているのは、国やメディア、それから全国の国民である。



必要な事は正しく伝えて欲しい

だから、ジャーナリストと呼ばれる人たちは、取材した情報を客観的に処理して、必要な情報はキチンと報道するべきだと思うのだ。

今回、私が指摘したいのは、ジャーナリストのまさのあつこ氏のブログ「ダム日記2」である。

1.半世紀が過ぎてもまだできない:八ツ場ダムは特定多目的ダム法に基づく治水、利水を目的とした多目的ダムだが、 1952年のダム計画浮上から57年が経過した。ゼロ歳だった人でも57歳になんなんとす。疲れ果てて反対運動の旗を住民が降ろしたのは1992年。それから17年が経ち、総事業予算の7割が消化されたが、事業完成度は2008年度末で付替国道6%、付替県道2%、付替鉄道75%、代替地造成10%など、完成までの道のりは遠い。3000億円強はどこへ消えたのか?
引用:八ッ場ダムの7不思議 ダム日記2
http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/7-03cc.html

計画から57年経っているので、ダムの治水・利水効果は薄れてきている事は事実だと思う。

しかし、「半世紀が過ぎてもまだできない」という表現は、正しいのだろうか。

計画が発表されたのが1952年であり、57年前に建設計画が発表された事は事実だが、ダム建設推進を前提とした協定書が締結したのが1992年。

工事の着工は、道路建設が始まった1994年である。

工事期間は15年であり、あたかも57年間工事を続けているような表現が正しいとは思えない。

まさのあつこ氏は、実質工事期間(1994〜2009)は、15年だと明記するべきではなかったのか。



ダム工事は、本体工事に入る前の工事に費用がかかる

また、まさの氏はダム建設に関しては、一般の人の何十倍もの知識があるはずなのに、ダムの本体工事に入る前の費用の方が、ダム本体の工事費用よりはるかに高額になる事を明記していない。

  • 土地の買収
  • 工事用の道路(資材や人を運搬する為の道路)建設
  • 工事に必要な地盤改良

土地の買収は説明する必要もないと思うが、工事用の道路建設や地盤改良については、キチンと説明しないと一般の人には解らないのではないかと思う。

山奥に大型建造物を造るため、資材や人を搬入する為の、工事用道路が必要になる。大型車両が頻繁に通行する為、強度も要求されるので、アスファルト混合材の量も多くなる。

地盤改良とは、建築物、橋梁などを地盤の改良を行う事です。
基礎地盤の改良工法には、置換工法、表層処理工法、載荷工法、脱水工法、締固め工法、団結工法などがある。



ちゃんと説明しないと、一般の人は思考停止に陥る可能性がある

ダム建設とは、ダム本体の工事費用より、ダム本体の以外の費用の方が多額の費用になる。

だから、ダム建設には膨大な費用が必要となり、財政を圧迫するのである。

その事をちゃんと伝える事がジャーナリストの社会的使命だと、私は考えるのです。

メリットとデメリット、それに関する正しい情報をキチンと伝える事は非常に重要な事だと思います。



八ッ場ダムの7不思議には重要な事も多い

まさのあつこ氏の「八ッ場ダムの7不思議」には重要な事も多く含まれている。

  • 2.東京五輪渇水に備える事業?!
  • 3.1日53トンの石灰が必要
  • 4.石灰の沈殿物を貯めるダムと土捨て場が必要

これらの疑問は、私も疑問に感じている。

2に関しては、渇水対策の目的がオリンピックに限定される訳ではないので、指摘する必要が在るのかどうか解りませんが、計画当時の目的のひとつだった事は事実である。


3と4に関しては、内容が重複する問題で、吾妻川の水質に由来する問題だ。2つに分ける必要性は感じないが強酸性の水質を改善する為に中和剤(石灰)が使用される事や、沈殿物の処理は指摘しない訳には行かないだろう。



「5.3人の首相と3人の世襲がガード」に関しては、癒着構造を指摘したかったのだろう。

今後も癒着構造に対しては厳しく追及して頂きたい。



6と7に関しては、八ッ場ダムの必要性を問う大切な問題である。

八ッ場ダム問題に関して、私はダムの必要性を最優先して議論するべきだと考えているので、今回の7つの疑問の中で最重要だと考える。



疑問の対象が小さくなってしまう

重要な疑問を提起しているからこそ、「1.半世紀が過ぎてもまだできない」の部分が残念でならない。

「3000億円強はどこへ消えたのか?」という疑問にせずに、ダムの工事には本体着工前の費用の方が高額になる事を正直かつ正確に伝えるべきだったと思う。

ダム事業が高額になる理由を明確にする事が、今後のダム建設に対する疑問になるからだ。

八ッ場ダム限定の話にせず、日本のダム事業全体に対する疑問にするべきだったと思う。

今後のダム事業については、必要なのか、それとも不要なのかという問題をケースバイケースで冷静に判断するべきだ。

中止する理由を明確にしないまま「ダム=無駄」「ダム=癒着」「ダム=利権」という思考で停止してしまっていては、必要な公共事業をも中止する事になりかねない。

私は、必要ならばダムだろうが高速道路だろうが作るべきだと考えている。

もちろん、不要なものは一切作らないという前提での話だ。

また、まさの氏は中止した場合の費用について、保障問題などは計算しているが、中止した場合は中止後の追加工事が発生する事を言及していない。

現在までに進行した工事で、橋や県道は開通する方針のようだが、その他にも防災の為の追加工事が必要だ。

むき出しの斜面や地盤を放置する訳にはいかないのだ。

もし放置したならば、今後の集中豪雨などによる被害の拡大を招きかねない。

詳細な計算は、国交省が今後試算する事になると思うが、莫大な防災費用が必要になる事も明記するべきだったと思う。