諫早湾干拓事業について

佐賀県に住む私には、諫早湾干拓事業は身近な話題です。

唐津市に住んでいるので、諫早湾干拓事業の弊害は直接関係ないようですが、大きな話題になった問題ですし、有明海の漁業者には深刻な問題なので、一応関心はありました。

よく政治問題を取り上げている当ブログですが、今まで諫早湾干拓事業問題を取り上げた事はなかったと思います。

佐賀県に大きな影響がある問題だから、当事者としてコメントを控えていたわけではない。

あえて取り上げなかったのには訳がある。

佐賀・福岡などの有明海で漁業を営む人たちが開門調査を求めている事も知っていたし、同じ佐賀県民として佐賀の漁業者を支持したいという気持ちは強い。

しかし、諫早湾干拓事業は諫早湾の水害を防ぐ役割りを持っている事も理解している。

開門調査を行って、運悪くその間に「諫早が水害に見舞われたら」とか、「水害によって尊い人命が失われたら」という事を考えたら、声高に「開門調査しろ!」と主張する気持ちにはなれなかった。



有明海の漁業のダメージ

因果関係が判らないので、因果関係をハッキリさせるために開門して調査する事は悪いとは思わない。

有明海の漁獲高の激減は深刻である。


しかし、閉門されてからも佐賀の特産物・海苔養殖に関しては品質・量ともに良かった年があったので、海苔養殖に関しては、諫早湾干拓事業は必ずしもマイナスばかりではないと思う。

一番深刻な問題は、もうひとつの特産物・タイラギだと思う。

タイラギとは有明海の特産物の一つで、二枚貝の仲間である。

タイラギは高級食材で、主に首都圏や関西方面に出荷される。

タイラギ漁は、アポロ11号が月面着陸した時の宇宙服のような防水服を着た漁師さんが、海底を歩き回って行われていた。

しかし、近年は不漁だったし、漁自体が出来ない年もあった。

タイラギ漁を主な収入源にしていた漁師さんたちは、漁が出来ないので、関西や首都圏に出稼ぎに行く人が多かったようだ。

タイラギに関しては、閉門以来ずっと不漁が続いているので、深刻な状況だといえると思います。
ただし、閉門前からタイラギが不漁だったことも事実であるため、因果関係は定かではない。



諫早湾干拓事業

諫早湾干拓事業は、古くから行われているのだが、今回問題視されているのは平成元年に着工した国営干拓事業についてだ。

大型公共事業だったし、閉門の瞬間の映像がテレビなどで報道されたこともあり大きな問題になった。

着工当時、国の大型公共事業は問題視されていたし、報道では無駄な公共事業として扱われていたので、諫早湾干拓事業は悪いイメージが付きまとっている。

諫早湾干拓については営農が主な目的だが、水害防止という目的も担っている。

私が生まれる前の話だが、1957年には諫早大水害がおきて600人弱の方々が死亡・行方不明になっている。



漁業者の主張の矛盾

まず、各漁協には総額で300億円弱の漁業補償が支払われており、有明海の漁業者に漁業権が無いのではないか?という疑問があるし、また問題の潮受け堤防の閉門と不漁の因果関係が不明である。

大型公共事業を嫌悪する団体と結びついて、科学的根拠に乏しい主張をしているのではないか?という印象も強い。

漁業者側の主張には科学的根拠が乏しい、不漁の原因を諫早湾干拓事業に責任転嫁しているという見方も出来るのである。



干拓事業推進派の矛盾

推進派の人たちの主張は主に営農に関する事なので、経済的視点で考えると理解出来る事ですが、防災的視点では本当に水害防止に効果があるかどうかは疑問である。

諫早市島原半島の首部に在り、三方向から海が迫っているような地形で、高波などの被害はナカナカ防げないという印象が強い。しかも、諫早湾のように内陸部に入り込んだ地形の場合は、どうしても高波の被害が大きくなるし、その諫早湾自体が有明海という内陸部に入り込んだ海の中に在る。

極論だが、二重に高波被害を受けやすい地形であるといえる。

諫早湾の潮受け堤防では、東風が強いときの高波は防ぎようがないように思える。



なぜ、いままで取り上げなかったのか

私にはお互いの主張が矛盾していると感じるのですが、個人的には佐賀県の漁業者を支持したいという感情の方が強いです。

しかし、開門調査をしている間に運悪く諫早が水害に見舞われたら・・・と考えると、納得出来る根拠がない限り開門調査を支持する訳には行かないと思っている。

非常に難しい問題であるとともに、経済か人命かという問題になると、人命優先だろうなという気持ちになる。

私が佐賀県の知事や佐賀県の漁業者だったら絶対に開門調査を支持するのですが、一佐賀県民としてはなかなか難しい問題である。

もちろん長崎県知事や諫早周辺の住民だったら、絶対に開門反対と主張する。

あくまでも中立的な立場でいたいので、あえてこの問題には触れなかったんですよね。


しかし菅総理が、佐賀地裁福岡高裁の「5年間の潮受け堤防排水門開放」という判決を上告しないと発表したので、開門調査が決定したと判断し、私なりの見解をブログに書こうと決意した。

当然、佐賀県としては喜ばしい決断であり、長崎県としては容認したくない決断である。

問題は「菅総理がキチンとこの問題を理解しているのか。」という一点に尽きる。

何度も現地で視察したらしいが、イザ開門調査中に大水害が起き、尊い人命や住民の財産が大打撃を受けた場合、その責任の所在はだれにあるのかという事も理解していてもらわねば困るのである。

もし被害が出て人命が失われた場合、その責任を取れる人物などいない。死んだ人が生き返る事は不可能なのである。

それでも「全責任は自分がとる」と菅総理が決意したのであれば、それは尊重するべき決意である。

しかし、菅総理の一連の発言から推測すると、ただなんとなく地裁・高裁の判決を受け入れた感があり、今ひとつ釈然としないんですよね。


なんせ法人税減税問題では「ここは思い切って5%減税する事にした」と発言したばかりの総理である。

もちろん、5%減税が悪いといっているのではない。法人税5%減税が我が国の経済を刺激するのであれば、大英断になるだろう。

ただし、5%減税を決めた根拠が明らかにされなかったことで「あ〜また重大なことを、なんとなく雰囲気で決めちゃったなあ〜」という印象を受けたばかりである。

重大なことをなんとなく雰囲気に流されて決めてしまう首相をみて、心の底から不安を感じるのだが、その件は今後機会があれば書きたいとおもう。

しかし、菅総理には決断に至った経緯や根拠を明らかにするという良識を身につけて欲しいと思う。

総理大臣としては最低限必要な事だと思うんですよね。

愚痴っぽくなっちゃったので、今日はこの辺で終わりにしたいと思います。