生産性?なにそれ美味しいのって時代が続いたんだよな

久しぶりにはてな村の元人気者・ちきりんさんのエントリが、凄い数のブックマークを集めていました。

「生産性の概念の欠如」がたぶんもっとも深刻-Chikirinの日記


仰っている事は良く判るし、物凄く共感する部分も多かったです。

ただ・・・生産性の欠如した日本社会の構造的問題は重々承知した上で、少しだけ私の意見を書きたいと思います。


コストカットが高く評価された時代

確かに日本は生産性の欠如した社会です。ちきりんさんは工場などの製造現場では生産性の概念があるように考えておられるようですが、実は製造現場でも生産性は余り重要視されてません。


日本は今まで長い間不況が続きましたし、将来は人口が減少すると予測されています。今までは不況で物が売れない時代だったし、今後は人口減少のよって物が売れない時代が続くという事です。

物が売れない時代に、生産性を向上させても収益は上がりません。むしろ物が余るために物価が下落します。それが市場原理というものです。


物が売れない時代に、生産性を上げて増産するという事は自らの首を絞めるようなものでしょう。

そんな時代に企業は生き残るために、コストカットを選択しました。

生産性を上げて増産するより、人件費や光熱費等の固定費を削減して利益を確保しようとしたんですね。


一時はリストラと呼ばれていました。再構築を意味するrestructuring(リストラクチャリング)の略語なんですが、日本では強引な解雇というイメージが強いです。経費で一番大きいのが人件費ですから、固定経費を削減するには人員整理が手っ取り早い為、企業は人員整理を行い利益を確保しようとしたんです。

その後も様々な経費削減が行われました。


生産性を上げるより、コストカットで利益を確保しようとする企業が多かったんです。

企業の目標は売上げを伸ばす事から、経費削減に変わりました。より多くの固定費を削減した人が評価され、重要なポストに就きました。

生産性を向上させるスキルより、コストカットのスキルが重要視される時代が20年以上続いたんですから、製造現場でも生産性が欠如するのは当然です。

更に、上級職者は皆コストカットのスキルを持った人たちです。生産性を重要視してくれる上司がいないのに、生産性を求める従業員が育つ訳がありません。


勿論ちきりんさんが主張しておられるような構造的な問題も背景にはありますが、一番の要因は長引く不況を乗り切るための苦肉の策として登場したコストカット(経費削減)という戦略の結果だと私は考えています。

外資系の企業に生産性という概念が色濃く残っているのは、外資系などのグローバル企業は世界中の市場を見据えているからで、日本の場合は内需がメインですからパイは限られています。生産性向上よりコストカットが効果が出し易い環境です。


今後の問題点

日本企業で生産性という概念が薄れてしまったのは時代の流れとも考えられるでしょう。


ところが「時代の流れだからしょうがないよね。」では済まない可能性も出てきました。

今後は政府主導でインフレ政策が採られます。政府は年2%のインフレターゲットを設定していますが、このインフレ政策が軌道に乗ればコストカットによる利益の確保は困難になるでしょう。

更に物価が上昇してる時代にお金を内部留保しているような馬鹿な企業は大損する事になるでしょう。デフレの時は現金を持ってる方が得ですが、インフレの時には現金を持っていても徐々に目減りする事になります。

そんな事は私がわざわざ主張しなくても皆知ってる事なんですが、問題は企業の経営陣です。


長引く不況で、売上げを上げて利益を出すよりコストカットで利益を確保してきた企業やコストカットのスキルを磨いて現在の地位を築いた経営陣が、デフレからインフレに変わった途端にコストカットを捨て、売上げ重視に方向転換出来るでしょうか。

恐らく、上手く方向転換出来ずに苦しむ企業や経営陣が増えるでしょう。

トップダウンが可能な中小規模の企業なら、社長がタイミングを見計らって方向転換すれば問題ないでしょうが、役員を多数抱える大手企業の場合は方向転換に手間取るでしょう。

役員全員が器用に方向転換出来ないだろうし、コストカットは上手だけど大きな支出を伴う設備投資は苦手という役員が多いんじゃないかな。

コストカットの鬼から設備投資の鬼に簡単にシフトチェンジ出来る人は稀でしょう。徐々に役員の顔ぶれを変えていくしかないのですが、それすら上手く行かない企業も多い事と思います。


大手企業の屋台骨が揺らぎ、下請け企業などは倒産の憂き目に遭う可能性が高くなるでしょう。


時代の変換期

今後は「生産性?なにそれ美味しいの」って時代から「コストカット?内部留保?馬鹿な事言うな。物価が上昇してるんだから売って売って売りまくれ」の時代に変わると思います。

その変換期を上手に立ち回れるかどうかが、今後の業績に大きく影響する事になるでしょうし、我々の生活にも多大なる影響を及ぼす事になると思います。