作品と作者の人格、経歴は別物!海賊とよばれた男を読んだ感想

つい先月の事だが、2013年の本屋大賞に輝いた百田尚樹海賊とよばれた男(上下刊)」が文庫化されたので早速購入した。


百田氏の本は、過去にモンスター永遠の0を読んだのだが、元テレビ番組の構成作家らしく、時系列を巧みに操作する手法は秀逸だと感じていた。

特にモンスターは、序章で主人公が絶世の美女として登場するから最後まで読める文章だが、時系列に並べて書いちゃうと悲惨すぎて読めない作品です。

不細工な主人公がバケモノ呼ばわりされて成長し、好きになった男性からも気持ち悪いと評価され相手にしてもらえない青春時代。

とにかくモンスターの主人公の半生は容姿の醜さと、それに伴う悲惨な現実の連続である。


時系列通りに書かれていたら読者の半数が鬱になるような作品を、絶世の美女の過去の回想として描く事によって読める作品に作り上げた百田氏の構成作家としての才能は非常に高いと思う。


永遠の0に関しては、主人公の祖父が神風特攻隊で亡くなる作品の為、一部の人から「戦争を美化するな!」という強烈なバッシングを受けているが、そもそも主人公が自分のルーツを辿る作品で、メインテーマは家族愛でしょう。

作品の趣旨を捻じ曲げて、己のイデオロギーを強調する批判者達に対しては全く賛同出来ないのだが、百田氏自身が彼等を煽るようなツイートや発言を繰返している様を見ると、自分に対するアンチテーゼを巧みに利用して、作品のステマを繰返している印象も否めない。


私自身は、作品と作者の人格、経歴は別物と考えているので、百田氏のツイートや発言で、彼の作品を避けたりしないし、少し前なら佐村河内守氏の作品についても、作品が素晴らしければゴーストライターであろうと、偽障害者であろうと関係ないと思っている。

ただし私自身がクラシック音楽に興味がないし、良い作品だとも思ってなかったので、最初から彼の評価はゼロである。もちろんCDなんぞ購入していないけどね。


肝心の「海賊とよばれた男」ですが、作品は素晴らしい出来だと思いました。主人公のモデルは出光佐三氏で、出光佐三氏の経営哲学や石油メジャーとの戦いが描かれています。


ただし・・・文章自体は「あ〜城山三郎氏の文章に酷似してるな。」という印象が余りに強すぎて、文章としては高く評価出来るシロモノではないと感じました。


相変わらず時系列の組み換えによる文章構成は秀逸だが、それは過去の作品で高く評価してるので、いまさら評価するべき事ではないでしょう。


作品自体は城山文学の模倣に過ぎず、時系列の組み換え手法はTV番組ではよく使われる手法。なぜ2013年の本屋大賞に選ばれたのか疑問に感じる事もあるのですが、良作品なのか駄作なのかを問われれば、私は間違いなく「良い作品だ。」と答えるでしょう。

これはテーマの選出が優れているからに他ならない。


明治時代の人や明治生まれの人たちの生き様は凄い。

世界の最貧国だった日本を短期間で世界の一等国に押し上げ、戦後は世界でもトップクラスの裕福な国にしたのは、明治時代を生きた人や明治に生まれた人たちなのです。

明治生まれの大創業者の生涯を描くのであれば、高い確率で素晴らしい作品になるでしょう。これは作家の技量というよりも、モデルが素晴らしいって話なんですけどね。


私は城山三郎氏が亡くなった時に、城山作品を集中して読みました。

だから海賊とよばれた男を読んで「城山文学の模倣だな。」と感じた訳ですが、多くの人にとっては刺激的で感動的な作品だと思います。文庫化されて約一月が経過しましたが、まだ読んでない人にはお奨めの作品かな。


あくまでも、作品と作者の人格、経歴は別物です。