次亜塩素酸ソーダを使用しない食品製造が可能なのか?って事について

本日、ちょっと気になった記事を見つけたので、少し指摘させて頂こうかと思います。

大まかには同じ結論だと思うので、わざわざエントリして指摘する必要は無いかと考えたのですが、「次亜塩素酸ソーダが云々」と騒ぐ人たちに揚げ足をとられ、逆に嫌次亜塩素酸ソーダ派が利用されたら困るので、あえて指摘したいと思います。


id:Lag_TY さんのエントリ
いい加減にカット野菜=次亜塩素酸ナトリウム使用というのやめませんか。元メーカー社員より。


内容はタイトル通り、カット野菜は安全な食べ物だよって事なので、この内容自体については私も同じ意見です。

ただ、少しだけ認識が違う部分がありましたので、その部分だけを抽出して指摘しておきます。


殺菌剤のプールなんて膨大なコストが掛かるという認識

エントリ内にある次亜塩素酸ソーダの画像を見てもらえば12%次亜塩素酸ソーダと表記されています。パッケージは違いますが私が使用している次亜塩素酸ソーダも12%です。一部6%を使ってますが9割以上が12%です。

この12%次亜塩素酸ソーダって、実はそれなりに強力な薬品です。実際に12%次亜塩素酸ソーダに手を入れると、手の表面がビリビリと刺激されます。正直痛いです。

更にその後は手の表面がヌルヌルになります。これは手の表面の皮膚が溶けたからだと思われます。

12%の次亜塩素酸ソーダは、これほど危険な薬品だという事をまず理解して欲しいと思います。


これほどの薬品ですから、ソレをそのままプールに入れて殺菌するなんて、コスト云々の前に無理です。それだけで野菜が劣化しちゃいます。

次亜塩素酸ソーダを使って消毒殺菌する時は、12%の次亜塩素酸ソーダを何百倍もの水で薄めてから使用します。生野菜を殺菌する為に次亜塩素酸ソーダを使用してもそれほどコストは掛かりません。

私は生野菜の殺菌をした事が無いので、はっきりした事は言えませんが、塩素濃度1000ppm(便や汚物の殺菌に使用する目安)の殺菌用水溶液を作る場合、120倍に希釈します。12%次亜塩素酸ソーダ1リットルに対して水は119リットルです。殺菌用水溶液のコストは200円前後+水道代という事になります。

便や汚物の殺菌でもこの程度ですから、生野菜の殺菌に使用される次亜塩素酸ソーダのコストなど全く気にならない金額ですよね。

製造工程で次亜塩素酸ソーダを使用してないとは言い切れない。

製造工程で次亜塩素酸ソーダを使用してないとは言い切れない。というか不可能です。

記事の内容を抜粋すると製造工程は以下の通り

①低温の作業場で
②原料である丸野菜には、原則として製造当日または前日に仕入れ、冷蔵していたものを使用し
③冷水による洗浄
④カット(包丁で大まかにカットしてから機械で切る場合多し)
⑤冷水による洗浄
⑥水気を飛ばす(空気を当てます)
⑦パック詰め(適度な脱気パック、野菜によっては真空パック)
⑧冷蔵出荷

冷水による洗浄が2回入っていますね。

その冷水には次亜塩素酸ソーダが使用されているはずです。

水道水を使用している場合は間違いなく次亜塩素酸ソーダが使用されています。日本の水道法では0.1mg/L以上の塩素濃度を保つように決められています。ですから水道水は0.1ppm〜1.0ppmの残留塩素濃度だといえます。

水道水は次亜塩素酸ソーダで消毒・殺菌されますから、水道水を洗浄水として使用する場合は次亜塩素酸ソーダを使用している事になります


大きな工場だと水道水を使用せずに、井戸水などの地下水を使用している工場もあります。


私が働いている工場では地下水を使用しています。地下水を使用する場合の工程は以下の通り

  • 地下水をポンプで汲み上げる
  • 汲み上げた水に次亜塩素酸ソーダを入れる
  • 次亜塩素酸ソーダを入れた水を活性炭濾過装置で濾過する
  • 軟水器で軟水に変える
  • 最後にもう一度活性炭濾過装置で濾過する

という工程で地下水を利用しています。


軟水器の使用や濾過する回数は工場によって違うと思いますが、どこも似たようなものでしょう。

ちなみに次亜塩素酸ソーダを注入して、一回目の活性炭濾過後の残留塩素濃度は0.3〜0.4ppmくらいです。


工場内の水は全て0.3ppm前後をキープしています。毎日2回以上測定するので間違いありません。

この水が飲料水や製品作りに使用されています。殺菌効果は期待できないので、手洗い場の殺菌層や設備の殺菌をする場合は、更にこの水で希釈した次亜塩素酸ソーダを使用します。

私がいる工場でも、地下水を次亜塩素酸ソーダで殺菌して活性炭で濾過していると知ってる人は少ないです。200人くらいの従業員がいて、知ってるのは10人前後だと思います。メーカーで働いている人でも大多数は知らない事実です。


という事で、製造工程で次亜塩素酸ソーダを使用していないとは言い切れません。

記事のまとめには少なくとも製造工程で次亜塩素酸ナトリウムによる野菜の消毒はしません。となっています。消毒・殺菌効果が期待できない程度の残留塩素濃度ですから間違いとはいえませんが、製造工程で次亜塩素酸ソーダが使用されていないという事はありません。間違いなく次亜塩素酸ソーダを使用した水が使われています。


次亜塩素酸ソーダが表記されていない事について

記事では表示の義務が無いという事を強調されていますが、実際に使用されている次亜塩素酸ソーダの残留濃度は1ppm(0.01%)以下の濃度です。その水で洗浄したことを表記する意味は皆無といって良いでしょう。


まとめ

  • カット野菜の工場でも、製造工程で次亜塩素酸ソーダの使用率ゼロはありえない。
  • 次亜塩素酸ソーダを使用しているが、とてつもなく薄く希釈された物であり健康被害とかは考えられない。

大体こんなところでしょうか。

消毒や殺菌に関しては、放射線等を利用した殺菌消毒など方法はいくらでもあるんですが、コストや安全面を考慮したら、次亜塩素酸ソーダを希釈して行うのが一番現実的です。

それでも放射脳な人たちみたいに現実無視して「次亜塩素酸ソーダが〜〜〜!!」っていう人はいるでしょう。それは個人の考え方なので否定しません。


水道水も一切使わずに、または煮沸して塩素を飛ばしてから洗浄・殺菌すれば良いでしょう。

カット野菜に関しては嫌なら食うなってだけの事です。


補足

ppmという表記についての説明。1ppmは百万分の一の割合を示しています。


よかったら、次のエントリも合わせて読んで欲しいです。
http://d.hatena.ne.jp/kunitaka/20140215/1392471232